医療IoTとは

医療IoT（IoMT）とは、医療機器やウェアラブルデバイス、各種センサーなどをインターネットで接続し、データを収集・分析する仕組みを指します。従来の医療現場では、多くの作業が人手による管理や記録に依存していましたが、IoTの導入により、これらの作業を自動化・デジタル化することが可能になりました。

特に注目すべきは、医療機器の稼働状況や位置情報、患者の生体データなど、さまざまな情報をリアルタイムで把握・分析できる点です。このデータ活用により、より正確で効率的な医療サービスの提供が実現できます。

医療IoTの主な活用領域

医療IoTの活用領域は多岐にわたります。特に注目度が高い領域として以下の五つが挙げられます。

• 遠隔医療・モニタリング
• 医療機器の管理・メンテナンス
• 患者の見守り・転倒検知
• バイタルデータの収集・分析
• 医薬品・医療材料の在庫管理

例えば、遠隔医療やモニタリングでは、IoTデバイスを通じて患者の状態をリアルタイムに把握し、適切な医療サービスを提供することが可能です。また、医療機器の管理においては、機器の稼働状況や位置情報を常時モニタリングし、効率的な運用を実現しています。

このような医療IoTの実現において、RFID技術を活用したソリューションは、医療IoTシステムの「ラストワンマイル」を埋める役割を担い、これまでアナログで管理していた医療材料や機器の情報をデジタルデータとして一元管理することを可能にします。

医療分野でIoTが注目される理由

医療分野でIoTが注目される背景には、深刻な医療従事者不足や高齢化による医療需要の増加があります。さらに、医療の質向上への要求や医療安全への意識の高まり、医療費の適正化といった課題も存在します。

IoT技術は、これらの課題に対して、業務効率化による人手不足の解消、データに基づく医療の質向上、医療事故防止、コスト削減など、多面的なソリューションを提供します。

医療IoT導入のメリットとしては、次の三つが挙げられます。それぞれ詳しく解説します。

業務効率化と医療安全性の向上

医療IoTの導入により、多くの手作業が自動化され、医療スタッフの業務負担が大幅に軽減されます。例えば、RFIDタグを用いた医療材料の管理では、検品作業や在庫確認が効率化され、作業時間を大幅に短縮できた事例があります。詳しくは、亀田総合病院の事例をご覧ください。

医療安全の面では、システム導入による人為的ミスの削減が期待されます。例えば、投薬管理ではRFID技術を活用し、薬剤の種類や量、注入スピードを自動的に確認することで、ミスのリスクを大幅に減らすことができます。詳しくは、医療・医薬向けRFIDソリューション 投薬管理をご覧ください。

データに基づく医療の質向上

IoTを活用したデータ収集と分析により、より質の高い医療サービスの提供が可能になります。患者のバイタルデータや治療履歴を継続的にモニタリングすることで、異常の早期発見や適切な治療方針の決定をサポートします。

近年では、AI技術と組み合わせることで、収集データを基に疾病リスクを予測し、患者一人ひとりに最適化された治療法を提案するケースも増加しています。これにより、予防医療が推進され、医療全体の質向上が期待されます。

コスト削減効果

医療IoTの導入は、初期投資は必要なものの、中長期的な視点で見ると大きなコスト削減効果をもたらします。例えば、在庫管理の最適化による医療材料の廃棄ロス削減、業務効率化による人件費の適正化、予防保全による医療機器のメンテナンスコスト削減などが挙げられます。

さらに、データに基づく予防的なメンテナンスにより、突発的な機器トラブルによるダウンタイムを最小限に抑えることで、運用コストの削減にも貢献しています。

医療現場におけるIoT活用は、着実に広がりを見せています。本章では、具体的な事例を通じて、医療IoTがどのように活用されているのかをご紹介します。

クリニックでの活用事例

長野県上田市の下田眼科では、カルテにRFIDタグを取り付け、診察の各工程における待ち時間をリアルタイムに把握できるシステムを導入しました。眼科診療では視力検査や眼底検査など多くの検査が必要となり、待ち時間が長くなる傾向がありますが、このRFIDシステムにより混雑状況を正確に把握できるようになりました。

これを基に検査順序の最適化やリアルタイムにスタッフの配置を変更し、患者サービスの向上につなげています。詳しくは、下田眼科の事例をご覧ください。

医療機器メーカーでの活用事例

医療機器メーカーでのIoT活用も進んでいます。メドトロニックソファモアダネック株式会社では、脊椎インプラントの出荷・返却時の検品と在庫管理に課題を抱えていました。同社では、ゲート型RFIDリーダーを導入し、製品の出荷から返却までのトレーサビリティーを強化し、従来のバーコードスキャンによる一点ずつの読み取りから、一括読み取りへと進化させました。

これにより、作業時間の大幅な短縮だけでなく、作業品質の標準化や出荷ミスの防止も実現しました。さらに、医療現場での使用状況の正確な把握により、医療サービスの品質向上にも貢献しています。詳しくは、メドトロニックソファモアダネック株式会社の事例をご覧ください。

これらの事例から、医療IoTがさまざまな場面で効果を発揮していることが分かります。

医療IoTの導入には、慎重な計画と適切な対策が不可欠です。本章では、導入時の主な課題と、その具体的な対策、そして成功のためのポイントについて解説します。

導入時の課題と対策

医療IoTを導入する際には、いくつかの課題に注意が必要です。

1．セキュリティ対策

医療データは極めて機密性の高い情報であり、サイバー攻撃や情報漏洩のリスクに対する十分な対策が求められます。医療IoTシステムの導入にあたっては、法規制やガイドラインへの準拠が必須となります。

2．システムの運用体制の整備

IoTシステムを効果的に運用するためには、導入後の維持管理や、スタッフへの教育・トレーニングも重要なポイントとなります。システム管理者の役割と責任を明確化し、トラブル発生時の対応手順を整備することで、安定した運用が可能となります。

さらに、定期的なメンテナンス計画を策定し、スタッフ教育プログラムを確立することで、システムの持続的な活用を実現します。段階的な導入計画の策定と、現場スタッフの理解・協力を得ることが重要です。

医療IoTの導入を成功に導くためには、いくつかの重要なポイントがあります。

1．現場のニーズを十分に把握し、解決すべき課題を明確化する

医療IoTの導入に先立ち、現場スタッフへのヒアリングやワークショップを通じて、実際の業務における課題やニーズを丁寧に洗い出すことが重要です。システム導入の目的を明確にし、解決すべき優先課題を特定することで、より効果的な導入が可能となります。

また、導入の計画段階から現場スタッフを巻き込むことで、より実践的なシステム構築が可能となり、導入後の円滑な運用にもつながります。

2．段階的な導入計画を立て、小規模なパイロット導入からスタートする

一度に全システムを導入するのではなく、部門や機能ごとに段階的に導入することで、リスクを最小限に抑えることができます。まずは特定の部門や限られた範囲でパイロット導入を行い、その成果と課題を評価します。

パイロット導入で得られた知見を活かし、必要な改善を加えながら他部門への展開を進めることで、スムーズな全体導入が実現できます。また、定期的な効果測定と改善活動を行う体制を整備することで、持続的な改善サイクルを確立することができます。

医療IoTは、医療現場が抱えるさまざまな課題を解決する有効なソリューションとして、ますます重要性を増しています。業務効率化による医療スタッフの負担軽減、医療安全性の向上、データに基づく質の高い医療の提供など、そのメリットは多岐にわたります。導入に際しては、セキュリティ対策や運用体制の整備など、いくつかの課題はありますが、本記事で述べたような段階的な導入と適切な対策により、これらの課題を解決することができます。

TOPPANエッジでは、医療材料の管理や調剤工程の効率化など、医療・医薬品向けRFIDソリューションの提供や導入支援サポートを行っています。詳細については、ぜひサービス紹介ページをご覧ください。

医療・医薬向けRFIDソリューション